7.四万十と足摺岬
四万十・足摺岬方面の宿泊先については随分悩んだ。一つはこの日と翌日の観光要件(場所とそこで費やす時間)の関係、二つ目は宿泊施設要件と候補先のロケーション、それに第一と第二の組み合わせで“何か”を犠牲にする必要があるからだ。要はすべて満たそうとすると、本来一泊では無理な行程なのである。理想的なのは高知市内で一泊、翌日は海岸道路(横浪三里)を南下、足摺岬や竜串・見残しを観て、四万十川へ戻り少し上流の川沿いに宿を求めるべきなのだ。実際泊まり先を調べていると魅力的なところは四万十川中流域や山間部の檮原(ゆすはら)に在る(例えば隈研吾設計の“雲の上のホテル)。しかし、これらを選ぶと、鳴門から一日の行程ではチョッと苦しいし、足摺岬方面はあきらめなければならない。それもあり最終的には足摺岬へのアクセスが便利な四万十川市内で探すことにした。
“四万十の宿”は、リゾートタイプのホテルとしてリニューアルオープンしてから1年とあったこと、それにしては比較的部屋数が少なく(30室)また温泉があることも決め手になった。夕刻に到着、もう周囲は薄暗くなってきている。確かにリゾートらしく周辺に民家はなく、生活臭がしないのは期待通りだ。高層でないのも良い。しかしそのわりには玄関前の駐車場はあまりスペースが無く、従業員が駆けつけ一段低い横手にある広い駐車場へ誘導してくれる。30室のホテルにしては充分過ぎるくらいの広さだ。フロントへ向かうロビーは何も無ければ充分な広さだが、お土産物が大半のスペースを占めている。チェックイン時に説明を受けて、次第にこの施設の性格が見えてきた。温泉・食堂は宿泊者以外にも利用できる方式、地元向けのヘルスセンター機能を果たしているのだ。玄関前の駐車場が埋まっていたこと、広い駐車場が別に在ること、これで合点がいった。浴場には別の受付が在ったし、食堂は一見個室コーナー付飲み屋スタイル、地元の人が宴会を開いている。幸い宿泊棟は別棟、中庭に面して回廊の有る2階建て、部屋は広く天井も高く明かり採りがあり確かに“リゾート風”の佇まいで、落ち着いて過ごせた。
ここの評価は夕食に尽きる。先付からデザートまで、すべて地元の海産物を使ったそれは、格別手のかかったものではないが新鮮さと珍しさは断トツ。チャンバラ貝(小さな巻貝)や亀の手(岩には張り付いた妙な甲殻類)など仲居さんに解説と食べ方の指導を受けながら楽しく食した。いままで各地をドライブで廻って、ここほど地元直結の食事に与ったことはない。
17日(火)の朝は天気予報通り雨模様だったが、8時過ぎの出発時には小雨になっていた。河口東に在る宿からしばらく河岸に沿う道を遡り、一旦国道56号線に出て長い橋を渡って、今度は川の西側を走る国道321号線を南下。雨は上がり少しずつ道路が乾いている。
321号線から足摺スカイラインを走り1時間後岬に着いたときには青空が雲間に見え出してくる。早朝と言うこともあり岬の街はまだ開店前も多いが、結構観光客はそこここに居る。しかし、会話を聞いているとどうも中国人らしい。こんな所にもインバウンドのご利益が達しているのだ。ジョン万次郎の銅像に迎えられて岬の先端に在る展望台に達した時には、幸運にも太陽が顔を出し、雄大な太平洋が眼下で輝いていた。スケジュール上最も制約の多いここへの訪問は何度か逡巡したのだが、この一瞬の陽光を見て「来て良かった!」と心から思った。これが四国を去る最終日まで見ることのなかった最後の日の光であることを、この時は知る由もない。
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(次回;四国カルスト顛末記)
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