2015年3月10日火曜日

決断科学ノート;情報サービス会社(SPIN)経営(第Ⅱ部)-15


2. 1988年経営トピックス-7MIMI総代理店。
製造業を大分類すると、組立加工業(自動車、電子・電機・家電など)と装置工業(プロセス工業;石油、化学、鉄鋼、セメント・ガラスなど)に分けられる(この中間域あるいは混合域に、半導体、食品、薬品、プラスティック・金属加工などがある)。また技術面で分類すると、設計・開発技術と生産技術に分ける見方もある。“プロセス工業のシステムインテグレータ”を会社の事業領域と定め、3年間営業活動を順調に進めてきたSPINにとってはっきり分かってきたことは、ビジネスチャンスは圧倒的に“生産技術”に在ると言うことである。つまり工場の操業関連システム構築が最も大きなマーケットなのだ。その中核をなすプラント運転管理にはIBMACS(プラント運転制御管理システム)があり、プラント運転と両輪をなす設備保全管理に関しても既に東燃のMOSMaintenance Online System)を持ち、さらに品質管理に供されるLISLaboratory Information System)も稼働させていたから、それぞれの個別機能に対する引き合いに対応できる道具は揃っていた。しかし、それら全体の核となる生産管理システムは、和歌山、川崎と石油化学でそれぞれ独自のものを運用していたものの、グループ内の統一は程遠く、そのまま他社に販売できるような状態にはなっていなかった。
生産管理システムとは、ある一定期間(通常一ヶ月)の最適生産計画を立て、それを日々の個別プラント運転指示に落とし込むスケジューリング(いつからいつまで、どんな運転条件にするか)作業から成る。最適生産計画検討立案には線形計画法(LP)とよばれる数理手法が一般的に使われ、その結果(解)を設備や原料、市場などの状況を勘案して、ベテラン担当者がコンピュータと対話しながら、細々した計算をしてプラント運転条件として現場指示するものである。LPモデルの構築・理解のしやすさ、対話型計算のやりやすさがその優劣を決めると言っていい。特にスケジューリングではビジュアルな表示が大いに助けになる。PCやワークステーション(WS)にITの主役が移り始めた時期、やはりこの面(小型機による最適計算、対話型計算、グラフィカルな表示)では米国が一歩も二歩も進んでいた。
5月連休の渡米は、TCSTonen Control SystemACSと横河電機の分散型ディジタル制御システムCENTUMで構成)の紹介を米国IBM営業部門に行うことに主眼に置き、プロセス工業向けソフトの調査に関しては、一連のIBMとのコンタクトと科学技術シンクタンク、アーサー・D・リトル訪問で何かいい情報でも得られたら、という程度の考えで出かけた。だから特定のソフト会社と提携関係に踏み込むことなど思いもよらなかった。
それが米国IBMへ出向していたOKNさんの口から「元Exxonに居たTom Bakerがニュージャージーで自分の会社を経営しており、IBMとも付き合いがあるので、ご紹介しましょうか?」との一言で、思わぬ展開が始まったことは本欄-7TCSとそれに続くもの-3)で述べた通りである。
Tomの会社CDSChesapeake Decision Sciences)の製品MIMIManager for Interactive Modeling Interface)は1)生産計画検討用のLPモデル開発環境とLP解法エンジン、2)対話型スケジューリングツール、3)それらをビジュアライズする画像処理システム、それに4)システム開発を行う専用言語から成っていた。当にSPINが欲しいと思っていた機能をすべて備えた優れものだった。Exxonグル-プのみならず、化学会社、タイヤメーカーなどがスポンサーになり、実用実験を終えたばかりの新製品である。デモを見た瞬間「これなら日本で確実に売れる!」と感じ「是非売らせてほしい」と頼み込んだ。答えは「今は東海岸とヒューストンベースの商売で精いっぱい。とても外国へ出る余力はないので、東燃グループのSPINが日本でやるのなら、こちらの意向(ユーザー知見が大事)が叶えられるからOKだ」との返答を得て、秋には契約の細部を詰めて、総代理店(Sole Agency)になることが出来たのである。
MIMIの国内でのビジネスについては時々で話題に取り上げるつもりだが、最も大きい経営上のインパクトは、「CDS(と言うよりもTom;業界知名度抜群)が総代理店として認めた会社;SPIN」が米国の同業者(プロセス工業向けソフト開発会社)に期待以上の効果をおよぼしたことである。いずれの会社も世界展開を出来る程大きくなかったから、彼らがコンタクトするようになってきたのである。

(次回;1988年経営トピックス;1988年総括)


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