2010年2月17日水曜日

決断科学ノート-30(迷走する工場管理システム作り-4;生産管理論争-3;統一基本仕様)

 和歌山工場と川崎工場の工場管理システム構築には、生産管理手法の違いのほかに、取り組みのフェーズに違いがあった。このようなシステム開発の場合、先ず全体構想を描くスコーピング・スタディ(SS)、次いで技術的・経済的実現性を明らかにするフィーズィビリティ・スタディ(FS)、そして開発実行段階へと移っていく。
 川崎工場がその構想概要(SS)を見せ始めたとき、和歌山工場は既にFSを終え実行予算の枠取りの段階にあった。しかし、両者の生産管理手法の違いに加えて、第一次石油ショックによって(それぞれの計画における主として経済的な見直しは済んでいたが)、両工場の計画を見直すと伴に、生産管理の方法についてその統一を図るべしとの声が、本社製造部(TSK生産管理部を含む)、情報システム部から起こり、その基本仕様をまとめることになった。
 通常東燃グループで新しい技術的課題に取り組む際には、Exxonグループ内での事例やそのエンジニアリングセンター(Exxon Research & Engineering;ERE)における研究開発情報を参考にするのだが、精製プロセスの大型細密LPモデル開発やプラント設計モデルの研究は行われていたものの(個々のプラント設計モデルをつないで工場モデルを作り、それによって生産管理を行う構想が伝えられていたが、計算量が膨大になるので話題の域を出ていなかった)、日常的に工場で利用する新しい生産計画用ツール(スケジューリングを含む)は存在しなかった。
 そこで独自仕様開発のため、本社・工場の関係課長によるステアリング・コミッティ(舵取り・評価委員会)を創り、その下に実務者レベル(本社、各工場1名、計3名)のワーキンググループを設けてこの作業が進めることになった。私は川崎工場の実務者としてこのワーキンググループに参加することになる。先行していた和歌山工場に作業場所を設け、約2ヶ月集中的に統一仕様作りに取り組むことになった。
 製造部門(工場の管理部門を含む)の関心は、ヴェテラン担当者がもっとも時間を費やす②スケジューリングの支援ツールとプラント運転後の④各種運転実績データ収集・分析作業支援ツールにあった。それに対して技術・情報部門の挑戦課題は、①最適生産計画の立案方法と③プラント運転におけるその実現策である。骨格が①-②-③-④となることは比較的スムーズに決まった。
 問題はそれぞれの中身である。③④に関しては両工場それほど大きな違いはないが、①②に関しては、前2回の報告のように、和歌山は線形工場モデル(①)+スケジューリング担当者のやり方をプログラム化(②)、川崎は一体化非線形モデルで①②を一気通貫(③の機能も一部カバー)で扱う構想を持っていたため、その整理は難航した。
 結局統一仕様として、①の部分は工場“線形”モデル、②もカルキュレータを使う和歌山案が採用されることになるのだが、将来の技術検討課題として非線形モデル案も付記することになったのである。これは川崎計画のSSでも、計算機の能力も含めて実用性を確証することが出来ず、経済性算出をする際、線形モデルを使わざるを得なかったことによる。
 この統一生産管理仕様作りは、異なる部門・事業所間の意思統一、担当者の考え方の整理に大いに役立ち、15年後に情報サービスビジネスを立ち上げてからも、外部ビジネスに利用できるほどのものとなった。
(次回:先行する和歌山の苦悩)

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