2010年4月9日金曜日

決断科学ノート-38(迷走する工場管理システム作り-12;コンピュータの選択-2)

 通常ベンダーセレクション(メーカー選定)は、2~3社を対象に行う。しかし、今回はそれぞれに技術的な特徴(技術体系の変革期)があり、更に今までの実績(共同研究や対象外機種の使用実績など)もあって一気に絞り込むことが難しい。そこで二段階に分けて最終決定に持ち込むことにした。第一段階はこちらの要求仕様にどこまで応えられるかに主眼に置く。無論見積価格は提出してもらうが、重要なのは機能である。これで2~3社に絞り込んで、第二段階で最終決定するという手順である。
 第一回目の見積照会は前回取り上げた、ミニコン御三家(DEC、DG、HP)と汎用機で実績のあるIBM、富士通、東芝に行った。6社競札はこちらも初めてだが、応札する方も未体験だったようだ。川崎工場の会議室に全社を集めて行った仕様説明会は、後日の語り草になったほどである。
 東芝(TSKには複数のシステムが納入されていたが、東燃には実績なし)と富士通(FACOM-Uは子会社の製品)は、どうも当て馬ととった感があり、提案内容に突っ込みを欠いていた。IBMは何とか期待に応えようと努力しているのは伝わるのだが、悲しいかな、ぴったりの機種が無い。第二段階まで進んだのは御三家である。ただし、IBMに関しては、和歌山に工場管理システムとして採用していることもあり、最終決定まで継続検討を行うよう本社から指示があった(上の方は4300の発表が近いことを耳打ちされていたのかもしれない)。
 DEC、DG、HP、いずれも東燃グループに全く実績は無い。技術提携先のエクソンでもPDP-8(DEC)が一部の工場やラボに導入されているものの、それほど普及していなし、その他の会社・機種はエクソンの技術レポートでも見たことが無い。わが国・わが社の利用環境を踏まえた独自評価を進める必要がある。
 ミニコンのIBMといわれたDECは世界規模での実績は問題ない。PDP-11と言う機種の評価も高かった。日本でのビジネスは、日本DECと言う法人はあるものの、実際は理経という商社が取り仕切っていた。無論エンジニアもいるのだが、知識・技能はあくまでも標準システムの範囲内で、ユーザー領域まで達していない(これは三社とも大きな違いは無い)。北辰電機のようにPDPベースのシステム販売をする会社もあったが、制御用の色彩が濃い。また、工場設備用には多くの実績があるものの、事務処理も含む工場管理分野には必ずしも優れているわけではなかった。
 DGのNOVAは日本ミニコンが熊谷に工場を建設し、そこで組み立てられていた。三社の中で唯一日本に生産拠点がある点は強みだった。しかし、立ち上げたばかりのビジネスは標準製品の箱売りで、システム販売ではない。応札はしたものの、こちらの要求にどう応えていいか戸惑っているところが垣間見えた。
 HPも自社ではシステム含みのビジネスはやっていない。ただこの会社は1960年代の前半から横河電機と高周波測定器の合弁会社(横河HP;YHP)をつくっていた(そのための工場が八王子に在った)。応札したのはこのYHPである。また横河電機はここが販売するHP-1000をプラットフォームにしたプラント操業管理システムを、顧客ニーズに合わせてシステム販売していた。しかし、汎用性の高い(事務分野もカバーする)HP-3000はさすがに取り扱ってはいなかった。
 今まで紹介してきたように、IBMも含めて米国のコンピュータ・メーカーは標準システム販売が原則である。しかし、IBMと付き合って分かったことは、最終責任は負わないものの、実質的にはシステム統合(他社製品との結合やアプリケーション開発)を、強力に支援してくれることを知っていた。そこで御三家にその点を打診してみた。最も具体的な提案があったのはHPである。HP製品に精通した日本システム技術(のちに横河グループ入りする)を連れてきて、こちらの要求との摺り合わせをしてくれた。
 開発を担う当社のエンジニア達は、基幹ソフトのOSやデータベース(DB)、開発言語などの評価を行った。オンラインでアプリケーション開発が出来るOS;MPE、OSの一部を成す、動きの軽いDB;Image、修得し易い開発用言語;SPL。IBMや富士通の汎用機に比べ、明らかに一日の長があった。特に、多数のプログラマがCRTから同時にアプリケーション開発を行える環境は、技術的な面で高い評価を受け、決断の重要な因子となった。
 標準システム単体では、最も安いシステムではなかったが、システム統合やアプリケーションソフト開発費を勘案すれば、一番安く仕上げられると確信できた。
 最終段階になると、横河電機出身の役員が何人かアプローチしてきた。言わば横河が連帯保証人になった感じである。
 「IBMで良いんじゃないのか?(汎用機の価格を安くする手段をいろいろ提示してきていた)」という工場幹部を説得して、HP-3000の採用を決めた。
(次回;完成した工場管理システム)

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