2010年9月23日木曜日

決断科学ノート-45(トップの意思決定と情報-5;経営者と実データ・情報)

 経営情報システムの謳い文句の一つに“ビジネス最前線のデータや情報(工場の操業状況や販売実績など)を経営者や経営幹部がリアルタイムで把握できる”というのがある。TIGERを構築している時期にはまだ技術的にも経済的にもそのような環境ではなかったが、「やがてはそんなシステムに発展させたい」という夢はあった。しかし、一方で工場に長く勤務した経験から、「そうなると工場独自の管理はやりにくくなるな」と、こんなシステムに対する疑問も起こった。
 工場でエマージェンシー(大規模なプラント運転異常や緊急停止)などが起こった時、一応フォーマルな情報伝達ラインは決められているのだが、部門間・個人ベースのインフォーマルラインも動き出し、多忙な時に電話対応に時間を取られたり、タイミングや信頼性に問題があるデータや情報が独り歩きすることが無いわけではなかった。こんなときプラント運転の状況をリアルタイムで本社スタッフが見られたら、当面の現場対応は工場に任せ、現在の運転状況やトラブル発生時のデータを基に技術的分析や商売上の対応策を、工場を煩わせることなく進めることが出来る。だが、場合によって、データが直ちに見えるだけに、運転方法に口を出したくなる恐れもあるのだ。もしそれが役員レベルだったら・・・。
 この杞憂(?)は1990年代ITの進歩に依り現実のこととなった。SPIN(東燃システムプラザ)時代、特殊なデータ圧縮技術でプラント運転データを正確に記憶・解析できるソフトを某大手石油会社に納入した。本社の製造課長には「あのシステムで工場がよく見えるようになった」と感謝される反面、工場担当者からは「皆見えてしまうんで、チョッとね・・・」との愚痴も聞かれた(とは言ってもここ10年の大掛かりなM&Aで数を増した全製油所にこのソフトが採用され、経営に役立てていただいている)。
 それでもプラント運転データのような物理的データを自動処理するようなシステムは、経営を根本から誤らせたり、混乱させるようなことはまず無い(皆無ではないが)。問題は人手を介するデータ・情報である。例えば販売データの場合、先ず本当に受注できたのかどうかが曖昧なことがある。次にそれは正しいとしても、価格付けやどんな販売手段(店頭での並べ方など)を取ったかが影響してくる。嘗て学会である乳酸飲料会社のシステムの話を聞いた時、発表者も苦笑しながら話していたが、季節変動要因は考慮してあったが、所有するプロ野球球団の優勝まではパラメーターとして織り込んでおらず、そのまま取り込まれたデータがその後の需要予測に影響してしまったことがあると話していた。
 同じような時期、経営トップに資する情報システム、SIS(Strategic use of Information Systems;戦略的情報システム)の話題が巷間を賑わすようになってくる。そんな中で牛丼チェーンを展開していた大手が経営に行き詰る。再建に当たったスーパーの関連情報システム会社役員は「倒産の一因は、社長のところに各フランチャイズ店の情報が逐一上がり、これに社長が一喜一憂、次から次と指示を出し、現場が大混乱したことにある」と語っていた。最前線から上がってくる情報に、その場しのぎの兵力逐次投入でガダルカナル転進を余儀なくされた大本営の姿がそこに重なる。
 一方、セブンイレブンのPOS(Point of Sales;販売管理)システム成功談が雑誌や経営書で紹介されていた。印象的だったのはヨーカ堂グループ総帥の鈴木敏文氏の「もちろん小売業にとって売上データ収集のスピードと精度は重要だが、それにも増して大切なことは、経営者や管理者が市場の動きに対する商売上の仮説や文脈を作り上げ、それを日々検証するために情報システムを使うことだ」と述べていたことである。日常の業務管理システムから提供される実データ・情報を経営の視点で使いこなす。経営者・管理者向け情報システムの在り方について、これほど的を射た見解を未だ目にしていない。ここには第二次世界大戦における英国の危機を救ったOR適用の考え方と共通するものがある。消費低迷で次々とスーパー経営が不振に陥る中、ヨーカ堂グループが健闘している理由はこんな経営者と情報のかかわりにあると考えるのは穿ち過ぎだろうか?
(次回;経営者と情報システム部門)

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