2011年9月22日木曜日

決断科学ノート-89(大転換TCSプロジェクト-26;派米チームの苦闘-4)

 国内初導入のACSを確り理解してくる。派米チームのSE全員に課せられた使命である。何か不都合があったときには、自社で診断・処置(少なくとも応急的な)を出来ることが求められるレベルである。なにしろ日本IBMですらOSKさん一人しかSEは居らず、彼も東燃メンバーと一緒に教育訓練を受けている状態なのだから、しばらくの間は自前の対応能力が不可欠なのだ。
 ACSはそれまでのプロセス・コンピュータ(プロコン)とは違い、世界の大型汎用コンピュータの事実上の標準機、IBM370系(360→370(当時)→3090、中型機;4300)の上で動くシステムだ。汎用機の歴史は長く、応用範囲も広い。プロコンとは全く違う、バッチ処理(個々のアプリケーションを一づつ順番に処理する)で大量・複雑な計算処理を行う。それに対してプロコンは、実時間で起こる状況に即した情報処理を行えなくてはいけない(順不同のリアルタイム処理)。基本的な性格が違うのだ。何故そんなものを使うのか?詳しい説明は省くが、汎用機はマーケットが桁違いに大きいので技術開発の進歩が早く、かつ継続性に優れている(古いソフトがいつまでも使える)。また利用状況に応じたサイズの選択や拡張性の幅が広い。
 この利点をリアルタイムの世界で享受しようと最初に考えたのはNASAである。そのためにはバッチ処理をベースとする汎用機基本ソフト(O/S;VM、MVSなど数種類あり、目的・容量によって使い分ける)とリアルタイムで動く適用業務をつなぐソフト、リアルタイムO/S(いずれの汎用機O/Sとも連動する)が必要になる。ここで開発されたのがSRTOS(Special Real Time O/Sの略か?)と呼ばれる特殊なO/Sである。つまりアプリケーションは、ACS・SRTOS・汎用機O/Sと三階層の基盤の上で動くのだ。派米チームメンバーは第一世代の専用機のリアルタイムO/Sには通じていても、汎用機のO/Sを扱った経験は無い。技術者としての苦労がそこにも在った。
 IBMのACS専門部隊はNASAとの関係もあってかヒーストンに活動拠点があった。石油業との関係でも最適の場所だ。ACSがIBMとExxonの共同開発となったのも、この地の利も関係しているかもしれない。派米チームとACS部隊との交流が始まり、現地からのレポートに専門家同志の信頼関係醸成の雰囲気が伝わってくる。しかし、ニュージャージとヒューストンでは距離がある。“何かあったら、いつでも”と言うわけには行かない。そこに現れた助っ人がIBM NJオフィス(EREも顧客の一つ)のMauro Castelpietra(マウロ)である。
 マウロはイタリア人、イタリアIBMに入社後その高いプログラミング能力を認められ米国に派遣、いつからACSに関わるようになったかは不明だが、この時は既にACSのスーパープログラマーとしてExxonの関連業務に深く関わっていた。TKWさん、YNGさん、ITSさんから聞かされたところでは、「ACSのみならず、三階層のソフトが完全に頭に入っている」と言うことであった。当にACSのレオナルド・ダ・ヴィンチである。和歌山にACSが導入されると来日の機会も増え、多くの日本人SEが彼の高い能力に魅入られるようになる。
 このIBM専門家との交流を裏で支えてくれたのがMichael Bareau(マイク)というERE担当営業である。彼は英国人、これも母国から米国に移り何とマンハッタンに居を構え、NJに毎日出勤していた。東燃にACSが導入され、それが国内他社にも採用されるようになると、日本での成功例を世界にPRする仕掛けを考えてくれたのも彼である。
 このような交流は一方的に東燃が学ぶばかりではなく、彼らにこちらの技術力・プロジェクト実行力の高さを認識させる機会にもなった。のちにTCSを外部ビジネスに出来たのも、この時の派米チームの努力のお陰である。

後日談;
 マウロはIBM退職後イタリアにもどったが、ACSユーザーのために今でも自宅をベースにコンサルタントを続けている。2008年10月彼の家を訪ね一宿二飯の恩義に預かった(本ブログ、篤きイタリア-1(カテゴリー;海外、イタリア)参照)。
 マイクはIBM退職後OSI Software社(日本の総代理店は数年前までSPIN)の営業などを行っていたが、本年5月28日大腸がんで亡くなった(74歳)

P.S.;派米チームの活動については直接関係する立場にはなかった。従って同チームに関わる話題は、派米メンバーが送ってくれた公私信(手紙)や中間で訪米し現地での課題整理・慰労に当たったMTKさんらの話しに基づいています。年月も経ち、記憶が定かでないこともあって、不正確な点(特に、時期・人名・所属・役職)が多々生ずる恐れがあります。本ブログの読者でこれに気付いた方は下記メールアドレスに修正情報をいただければ幸いです。逐次記事の中でそれを正して行きたいと考えていますので、よろしくご協力をお願いいたします。

メール送付先;hmadono@nifty.com
(次回予定;和歌山工場導入)

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