2012年9月13日木曜日

決断科学ノート-112(メインフレームを替える-6;TIGERと日本語システム)



新しい職場(数理システム課)の定常業務は前回述べたようなものだが、それ以外にプロジェクトが幾つか走っていた。ひとつはTCSTonen Control System;プラント運転・制御システム)で、その主戦場は和歌山工場、TKWさんをチーフにメンバーは長期出張でそれに取組んでいた(詳細は本ノート“TCS”に記載)。もう一つがTIGERTonen and TSK  Information GEneration and Retrieval )と呼ばれる経営者向け情報システムである。
TIGERは当時の社長、MTYさんの一言「本社の経営者もボツボツコンピュータを利用しなきゃいかんな」から動き出したプロジェクトである。正確な時期ははっきりしないが、まだ川崎工場に居た19814月頃から、話題になっていたから、株主総会後のパーティ辺りではなかろうか?5月にプロジェクトチームが発足、この段階で私もメンバーになっていた。しかし、長い工場勤務と言うこともあり、第一フェーズの“経営者向け”にはどちらかと言うと批判的だった(第二フェーズが本社スタッフ業務全般対象)。因みにこのTIGERと言うプロジェクト名は、MTYさんが和歌山工場長時代、挨拶や返答代わりに「ウォー」と咆哮するので付けられた渾名(タイガー)に由来する。
経営トップにコンピュータを使ってもらうことは、情報システム部門の夢であった。1960年代後半には、定常業務によって集積された大量データを経営判断に使うMISManagement Information System;ミス)がIBMによって提唱され、“言葉としては”ブームを呼んだものの、技術や内容が伴わず「MISMiss(失敗)した」などと揶揄され、70年代には死語になっていた。それから10余年、情報技術の進歩は目覚しく、スタッフ業務はCRT(ディスプレー)とキーボードで、オンラインで進められる時代に入ってきていたし、事務処理用のアプリケーションソフト(例えば表計算・図形処理)も普及し始めていた。TIGERに、情報システム関係者の“今度こそ”の思いが託されたのは無理も無い。
私が本社に赴任した9月、TIGERは(臨時)予算処置やスケジュール、開発ツール(EDSSExtended Decision Support SystemIBMが開発した簡易言語;グラフなどが描ける)の選択は終わっており、経営者向けのアプリケーション機能を具体化する段階にあった。しかし、これが大変な難題であることを、その後半年にわたって嫌と言うほど知らされることになる。
一体経営者はどんな情報を必要としているのか?それは日常どのように提供されているのか?その情報は判断にどの程度使われるのか?原油・原料選択では?製品卸売り価格決定では?傭船計画では?設備計画では?研究テーマ採否では?資金調達・運用では?賃金政策決定では?クレーム問題発生では?長期的には?短期的には?などなど。生産計画と経理関係処理を除けば、情報システムの担当者には全く未知の世界。分らないと言って直接聞きにいけるものでもなく、役員が管掌する部門に出かけて聞き取り調査を行ってみると、ほとんど既存のシステムの中には蓄えられていない情報ばかりである。
何とか各スタッフ部門で必要データを入力してもらう形はできたものの、当時の情報技術も経営者のIT利用知識も、欲しい情報を欲しい時に、自在に取り出せるような状態ではなく、総数にすると二百枚近い画面を作り、それを対応番号で呼び出すようなシステムにせざるを得なかった(紙芝居システムと呼んでいた)。19826月に稼動したTIGERは秋になるとほとんどアクセスされることが無くなってしまった。つまり、技術も内容もMISの時代同様、依然として経営トップに使える環境には無かったと言うことである(この顛末は、カテゴリー;決断科学、ITの“トップの意思決定と情報”に詳述)。
日頃トップと頻繁に接する本社スタッフと、経営者情報に関するディスカッションをして痛感したことのひとつにデータ(主に数字)を説明することの重要性がある。データにコメントを付すことによって、情報の価値がまるで変わってくるのだ。それが日本語であれば効果は一層高まる。しかし、EDSSは日本語を扱うことは出来なかった。

(次回;TIGERと日本語システム;つづく)

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