2015年1月13日火曜日

決断科学ノート;情報サービス会社(SPIN)経営(第Ⅱ部)-6


2. 1988年経営トピックス-2TCSとそれに続くもの-2
IBM ACSビジネスグローバル展開検討が主目的だった米国出張であったが、ワシントンからNYへ移動し、IBMと一連の作業(NYでのマーケッティング部門との打ち合わせ、NJでのACS関連会議とセミナー)が始まる間に、一つだけそれとは関係のない仕事があった。
それは科学技術分野に優れたボストン所在のシンクタンク、アーサー・D・リトル社を訪れ、プロセス工業におけるIT利用動向(主として米国)を聞くとともに、現在進めているSPINの同分野における活動に対して、意見を聞かせてもらうことだった。このような機会が持てたのは東燃が新規事業を進めるに当たり、同社と包括的なコンサルタント契約を結んでいたことによる。
当日朝、本件のアレンジをしてくれたTEICTonen Energy International Corp.NY事務所所長のNKMさんとシャトル便でボストンへ飛び、10時から4時頃まで会議を持ちNYへ戻る、忙しい一日だった。先方は56人の専門スタッフをそろえ、丁重に迎えてくれた。先ず私の方から、SPINの概要と日本でのプロセス工業におけるコンピュータ利用の現状を、特にTCS関連ビジネスに焦点を当てながらに紹介した。これら(日本)の情報は彼らにとって、当時日の出の勢いであった日本の製造業の一端を知る(特に組立加工業に比べて情報が少ないプロセス工業)いい機会であったようで、質問が続出した。
最大の関心事は中核となる工場操業管理用コンピュータであった。「何故IBMなのか?(それもミニコンではなく汎用機なのか?)」「何故DECではないのか?」「日本製のプロコン(東芝、日立、富士通)と米国のものとの違いは?」と続き、ランチタイムを縮めてホットなやり取りが行われた。
DECはボストンベースの会社かつ製造現場では圧倒的に強い。そのことは十分承知していたが、IBM同様自社製品の売り切りが原則で、ユーザーが望むアプリケーションを含む包括サービスを提供していなかった。IBMはそれでも支援体制が確りしており、TCSの場合に見るように開発部門がそれに参加してくれることもあったが、DECの場合商社のようであったから、我が国での導入は付加価値を盛り込む業者(VAR;Value Added Resale)経由で導入することになる。これがDEC普及(特にプロセス工業)の大きな制約になっていた。一方で製造現場では東芝、日立、富士通が包括サービスを含めてユーザーシステム構築に長い歴史を持ち、一定のシェアーをしっかり押さえている。こんな説明で一応納得はしたように見えたが、「何故IBMの汎用機か?」には釈然としないものが残ったようだった。
昼からは彼らのパート。先ずプロコンではDECのこの分野(製造業全体)でのシェアーが如何に突出しているかを、多数のOEMベンダー、VAR、アプリケーションソフト提供者の存在と併せて紹介し、具体的な社名もいくつか挙げて、それらと何らかの関係を持つことを薦めてくれた。例えば、Aspen TechMITからスタートした化学プロセス向けアプリケーションソフトベンダー;当時はシミュレーションに強かった)やSetPoint(ヒューストンベースの石油精製・石油化学プロセス制御に特化したソフトベンダー;のちにAspenに吸収される)などである(両社とも既に日本に拠点・提携先を持っていたから名前は知っていた)。
つづいての話題はDCS(分散型デジタルコントロールシステム)、ここでは専らHoneywellFoxboro(ボストン郊外在、現Invensys)が取り上げられ、特にグローバルマーケットにおけるHoneywellTDC20003000の優位が強調された。一方で、TCSで採用した横河電機のCENTUMについては、これが日本の市場でTDCをはるかに上回るシェアーを持っていることに驚かされたようであった(横河の名前は知っていたが)。
最後にプロコン+DCSシステム構築例を紙パルプ業界担当の女性コンサルタントがしてくれて、ここでもDECHoneywellがプロセス工業では強いことがわかった。
このアーサー・D・リトル社訪問は、こちらにとって特別新鮮な情報はなかったが、米国の状況を全体としてつかむためには有益なものであった。
漠然と残ったのは「IBM汎用機依存はいつまで持つだろうか?」「特色のあるソフトベンダーの利用が大切なんだなー」である。

(次回;1988年経営トピックス;“TCSとそれに続くもの”つづく)


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