2015年4月13日月曜日

決断科学ノート;情報サービス会社(SPIN)経営(第Ⅱ部)-20


41989年経営トピックス-3;事務システム関連ジョブ
情報サービス、特にソフト開発の市場は昔も今も事務系のアプリケーション(経理、販売、購買、給与など)が圧倒的に大きい。同じ石油会社でも販売を行っているところはそのカードによる売上処理だけで専用の大型汎用機を持ち、金融機関と同じような大規模で複雑な情報処理を行っている。この業界で成長していくためには、この事務システム・マーケットで確り顧客をつかんでいかなければならない。一方で市場が大きいだけにプレーヤー(競合相手)も多く、どう会社を売り込んでいくか一工夫要るところでもある。特に、IBMや富士通には優れたパートナーが目白押しで新参者が簡単に良い仕事をとれるような環境ではない。そこで考え出したのが業種特化である。先ず製造業、その中でもプロセス工業に絞り込んで勝負することにした。この経営戦略は見事に当たり、川鉄鋼板や電気化学工業の大掛かりなシステム更新の受注につながった。いずれも富士通経由の仕事である。
会社の特色を認知してもらうのはプロセス技術分野の強み、利益率も良いのだが、実際売上が大幅に伸びてゆくのは事務分野、これが経営の実態だった。IBMは自身でアプリケーション開発プロジェクトは行わず紹介にとどまるが、富士通は一括受注をIBMとの大きな差別化因子としていたから、当社への期待も高かった。そこで次の提案が出てくることになる。沼津に在るソフトウェア工場に複数の社員を長期派遣して、そこで徹底的に富士通のやり方を学び、併せてスタッフとの信頼関係を醸成して欲しいとの要請である。これは結構SPIN社内で問題になった。
ソフトウェア開発には様々なサービス形態がある。ピンがアプリケーション業務の分析・設計から稼働・運用までの一括受注だとすると、キリは業務内容に応じた人員派遣である。日常の業務管理も人事管理も発注側に委ねるこの方式は薄利多売の典型、従業員の士気低下につながる可能性大なので、SPINでは行わないことにしていた。また採用に際してその旨明言してきていたので、富士通からの提案はこの従業員との約束に触れるのである。とは言ってもさらに良い仕事を回してもらうには、一歩踏み込む必要もある。
結局従業員・経営の親睦組織スピン懇談会(一種の労使会議)で話し合い23年間数人期限を限って技術修得も兼ねて沼津勤務をしてもらうことを了解してもらった。選ばれたのは全て独身のプロパー男子社員(東燃から出向の社員は本籍の組合問題があるため難しい)、御殿場や沼津に住居を移して工場従業員と同じ労働条件で働くことになる。そして、この関係は清水に新設した東燃システムサービス(TSS)へと引き継がれていくのである。
この派遣は短期的には収支上各種オーバーヘッドを含めてこちらの大幅持ち出しだったが、富士通の最新技術を学べること、人間関係を確かなものにすること、そしてその後の受注ジョブにつながることで長期的に見れば充分ペイするものであった。例えば、小野田セメント(現太平洋セメント)の経理システム再構築がその代表例である。


(次回;1989年経営トピックス;社外活動)

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