2010年8月1日日曜日

奥の細道ドライブ紀行-7(乳頭温泉)

 角館から乳頭温泉までは約40km、1時間半の走りだ。途中田沢湖に立寄っても5時過ぎには着ける。駐車場から町の北側を走る角館バイパスへ出て、しばらく東進すると町外れで角館街道(国道46号線)に合流する。低い山々の間を蛇行する道は交通量も少なく、雨も上がって、どこにでも在る日本的風景の中を、快調に駆け抜けていく。田沢湖駅近くで北へ向かう341号線に入る。観光地に向かうと言うのに、ときどき行き交うクルマは生活のための軽自動車くらいである。田沢湖への分岐路ではそれも無く。湖畔の駐車場には、旅館の送迎用のマイクロバスと数台のワゴン車が駐車しているものの、4時前と言うのに、人影も無く、迎えてくれたのは遅咲きの桜だけだった。セーターのうえにジャンパーを羽織り、湖面近くまで歩いてみたが、寒さと寂しい雰囲気に長居は無用。日本一の透明度を誇るこの湖も、いまはシーズン・オフなのだ。
 湖畔から341号線に戻り、そこから北東へ向かう県道127号線、194号線に分け入って、秋田・岩手県境に近い乳頭温泉に向かう。道は緩やかな上りで、ほとんど人家もクルマもみかけない。途中桜が満開の並木道が現れるが、そんなところにも人の気配は無い。道幅が狭まり、曲がりと上りがきつくなって、残雪が目立つようになる。おまけにガスさえ出て、フォグランプを点灯しながらの走行だ。温泉地帯に入っても、いわゆる温泉街は無く、点在する宿泊施設が見えたり、そこへの分岐路が現れる程度である。一度だけ道路際にある比較的大きなホテル前で、停車中の小型路線バスを追い抜いた。今日の最終地、妙乃湯はそんな山奥の道の端に在った。数台しか停められない旅館前の駐車場は幸い空いていた。到着時間は5時少し前。辺りは天候のせいもありほの暗い。
 この旅館の選択に特別の理由があったわけではない。インターネットで照会・予約でき、こちらの希望スケジュールに合うところを探した結果である。値段と景観(渓流側)で部屋を選んだ。地形に合わせて出来た、複雑な造りの建物のかなり奥部の部屋は、希望通り真下を雪解け水が音を立てて流れる位置に在った。部屋にはテレビもラジオも無かった(予め希望すれば無料で用意してくれることを、後で知った)。案内してくれた人は「ここには七の浴室があるので、是非全部お試しください」と言い、混浴や男女切替時間について注意をしてくれた。
 乳頭温泉の由来は、乳濁色の色にあった。しかし最近はこの源泉が枯れたようで、その色を楽しむことは出来ない。一部の温泉宿で人工的に着色したのが内部告発され、数ヶ月前TVで話題になったほどである。翌朝の入湯を含めて七つの浴場を全て巡ってみたが、いずれも無色から薄茶、“湯種よりは浴場”を楽しむ趣向のようだ。それでも林間の残雪と渓流を見渡せる野天風呂は、“冷と温”のコントラストが全身で感じられる素晴らしいものだった。
 夕食は和洋折衷の食堂で摂ることになっている。柱や床、それに食卓や椅子の茶色の木地と白い漆喰壁のシンプルな彩が、文明開化期の洋館のような雰囲気を醸し出している。食事は名物のきりたんぽ鍋が一応のメインだが、前菜、刺身から始まり、焼き物、煮物など盛り沢山、最後のご飯(無論秋田小町)はきのこ汁と漬物でいただく。このきのこ汁は絶品で、おかわりをしてしまった。
 給仕をしていた、女将さんと思しき中年女性が一時席を外した。食堂に隣接して帳場がある。席からは見えないが、明らかに英語で予約に関する電話対応をしている。外国人がここの雰囲気に浸った時、その感動はいかばかりかと想像し、鄙びた温泉場の国際化が嬉しかった。
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