2011年4月30日土曜日

決断科学ノート-72(大転換プロジェクトTCS-9;Exxonコンピュータ技術会議-3;次世代システムに関する発表)

 TCCミーティングは、ニューヨークの郊外ライタウンで開催され、5月6日(日曜日)夕方のウェルカム・パーティでオープン。ここには遠方からの出席者、会議の幹部・幹事などが出席。本会議は7日~9日の三日間である。事前に渡された資料で、私の出番は二日目の午前。工場管理システムに関するテーマは、川崎の他に英国フォーリー製油所のものがあった。次世代制御システムに関する発表は3件である。初めての海外での発表は何とか用意したものを時間内でしゃべり終え、質問は一件。それでも発表後の休憩時間ほかに数人から質問を受けたから、まずまずの出来だったと思いたい。工場管理システムはこれからの大きな挑戦域としてECCSでの調査も含め、多くの情報を得たが、以下にはTCCにおける次世代制御システムに絞って記すことにする。
 この関係のトップを切ったのは、エッソ・ベルギーから参加したトッテン氏のアントワープ製油所におけるACSの適用である。本社情報システム部需給担当部門の長で、製油所の運転制御よりは工場全体・本社経営管理のための情報処理能力に関する内容が濃いものだった。これはACSがIBMの汎用機(370)をプラットフォームにしていることから、従来のユーザー層(プラント運転制御・解析)を超えて、その広がり持つことになったことからきている。ただ、事務処理用(相互にバックアップ)とは別に導入したため、費用が嵩むことを問題にしていた。SPCはほとんど触れられず、その点ではやや物足りなかった。しかし私の発表テーマや、フォーリーの工場管理システムと共通する話題が多く、フォーリーの発表者を交えて情報交換する機会があり、ここでフォーリーのローマン氏は発売されたばかりのIBM-4300(中型機だが汎用機と同様のO/Sを使っている)のコストパフォーマンスの良さを強調、これは大きな収穫だった。
 余談だが、このトッテン氏はACSの仕事で忙しく、ぎりぎりまで出発日時が決まらず、普通は利用を許されない超音速旅客機コンコルドで、発表前日パリ経由でやってきた。この時のサービスや飛行の話が発表導入部で紹介されたことが印象に残っている。
 ACSの話はもう一件あった。Exxon USAベイタウン製油所におけるユーティリティでの適用例である。これも製油所既存の370にACSを装備し主に情報処理を行うもので技術的にはあまり得るところは無かったが、“Exxon USAがACSに取り組んでいる”ことを知ったのはトクダネだった。これを切っ掛けに発表者のラーセン氏から、Exxon USAにおける次世代システム推進の中心人物、ボブ・ボルジャー氏(パトンルージュ製油所)を紹介され、彼のACSに対する一方ならぬ思い入れ(これには“ERE何するものぞ!”というUSAの誇りも多分に絡んでいる)に強く惹かれることになる。彼のこの強い思いがやがて彼の運命を変えていくことをこの時窺わせるものは何も無かった。
 ハネウェル新システムの発表者は、TCSプロジェクトリーダーを務めることになるMTKさんの古くからの友人ロイ・リーバー氏、私も川崎工場で一度会っている。所属はERE(NJ)ながら数年前からアリゾナ州フェニックスのハネウェル工場内にオフィスを構え、住居も移してPMX(Exxon版SPC)-TDC3000のシステム開発(仕様の摺り合わせからシステムテストまで)を担当している。しかし発表内容はTDC3000のデバッグが中心でPMXについては構成図に紹介される程度だった。驚かされたのは、試作が出来上がったTDC3000のバグの数が数千(確か三千件位)に及んでいたことである。そしてその虫潰しは遅々として進んでいないことであった。ただリーバー氏はこれを深刻に捉えている風ではなく、「いろいろ問題はあるが、若干スケジュールが遅れている程度」と結んでいた。しかしこちらとしては、「ハネウェル新システムの完成はかなり先だなー」と言うのが率直なところだった(実際に大幅に遅れた)。
 発表は無かったものの、ここでの交流からExxon Chemicalが進めていたBOP(Baytown Olefin Project)において稼動を始めていたPMX+TDC2000に関する情報が得られた。これは実用上に問題はないことが確認されたのだが、DCSが一世代古いことが気になった。
(次回;EREでの議論)
注:略字(TCC、SPC等)についてはシリーズで初回出るときに説明するようにしています。前の方をご参照ください。

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