2011年7月14日木曜日

決断科学ノート-81(大転換TCSプロジェクト-18;ヴェンダーセレクション-1)

 次世代システムのベンダー・セレクション(製造者選定・機種選定)はプロジェクトの大きな山場である。これにかかるのは、いくつかのステップ踏むことになるが、今回はグループ全体のシステムを統一するので、発注者側も受注者側も単独プロジェクトとは異なる長期的な視点が加わってくる。双方の仕様書(発注者側は要求仕様書、受注者側は提案仕様書)にこの将来構想を盛り込む必要があるし、予算や価格にも経済見通しや変化に対する対応策も考慮しなければならない。その一方で現在の製造者の持つ最新技術や製品仕様の詳細も熟知していなければならない。
 この仕様書作りは、本社の情報システム室に設けられた中央推進チームのメンバーの仕事となっていたが、それだけでは間に合わず工場からも応援メンバーを出して進められた。全体リーダーはMTKさん、DCSを中心とした計装関係はSGWさん、コンピュータ技術・通信技術はTKWさん、プロセス制御関係は石油化学のHRIさんがそれぞれの部門のまとめ役となり、それに適宜各分野の専門家も加わって次世代のMust・Wantを洗い出し、選択・修正・整理していった。
 要求仕様でもっとも注意すべき点は“Must条項(必要条件)”である。この記述によって公平な見積もり照会が行えない恐れが生ずることがあるからだ。単品として製造される機器では、照会段階の打ち合わせで受発注者間の相違点を埋めることも可能だが、複雑なシステム(ハードウェアのみならずソフトウェアを含む)では、発注者が意図的に要求仕様を操作し、特定の機種に有利な形に持ち込むことも出来るし、あるいは意図せずに生じた両者間の誤解が、一旦決した機種を逆転させる可能性もある。
 またWant条項(希望条件)はシステム提供者の心意気を探る場であり、ユーザーの夢があれこれ出てくるのだが、実現性(時間と費用)について充分スクリーニングする必要があった。
 当時の私の立場は、工場のSE課長として応援人材の提供と時々仕様レヴュー会議に呼ばれる程度であった。候補システムに関する知識は、現状のDCSについては山武(ハネウェル)、横河とも親しく接する機会がありそれほど偏りは無かったと思う。しかし、SPCに関してはIBMのACSに関してはTCCミーティング参加でかなり詳細を知ることが出来たが、ハネウェルのPMXはBOPの最新システム見学が出来なかった(グループの訪問希望が目白押しで)こともあり、ほとんど知見が無く、発言はどうしてもACSをベースにしたものになりがちだった。
 仕様書作りの難しさはこの長期見通しや詳細技術以外にもいろいろあったが、今までのこの種のものと全く異なる点は、見積もり照会をERE(米国NJ)で行うことであった。ハネウェルにしてもIBMにしても中長期的な展望を会社として責任をもって答えるためには、米国本社の参加が不可欠だったし、東燃も今回は要求・提案内容の検討にEREの参加を期待していた。
 そのため厚いファイル数冊(確か3冊)にまとめられた日本語要求仕様を英訳し、あらかじめERE担当者と内容検討をして、その結果を反映させた英語版要求仕様書を作成、それによって仕様説明会を行うことになった。この英訳作業では石油化学から米国に長期出張した経験を持つHRIさんが釈迦力で頑張った話は今でも語り草になっている。
(次回;ヴェンダーセレクション-2;国際競札)

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