2012年3月9日金曜日

決断科学ノート-109(自動車を巡る話題-3;軽自動車)




このところ何かと軽自動車が政治面、経済面で話題になることが多い。1月にはTPP議論の中で「米国が軽自動車規格を参入障壁と非難」と言う記事が出たし、先月末にはスバル360で軽自動車普及に先鞭をつけた富士重工業がついにその生産(軽トラックのサンバー)を終え、このマーケットから退場することが報じられた。
TPPの話は全米自動車政策会議(AAPC)から出たとされるが、どうも“軽”を狙い撃ちにしたのではなく、短命政権の通商政策のふらつきや為替介入、米国車の販売低迷がその根底にあるようだ。ただ世界的に見れば軽がかなり日本独特の市場向けであることは間違いなく、その割合は年々増加しているのだから、ビッグスリーの苛立ちも分からないではない。
20113月末の国内自動車保有台数を見ると、総数約75百万台の内36%を軽自動車が占め、1998年から10%強も伸びているのだ(因みにこの統計で軽比率が最低は東京の17%、最高は沖縄の53.5%;これは個人所得の順位と正反対;新興国・途上国での市場ニーズに何が求められるか象徴しているのではなかろうか)。この市場動向の中に各社の軽戦略が見えてくる。トヨタは早くからダイハツを傘下におさめ、ここに経営資源を集中している。トヨタグループ入りした富士重工の軽生産停止もこの考え方に沿ったものだ。日産はOEMでスズキや三菱の軽を自社ブランドにし、マツダも同様実質はスズキ車OEMで市場開発者(R360クーペ、キャロル)の地位を維持しようとしている。ホンダは一旦撤退していたこの市場に、昨秋エンジンを含めて新開発のNボックス(ホンダを四輪車メーカーとして飛躍させたN-360にあやかったのだろう)を投入して復帰してきた。三菱は高級(?;高価格)軽自動車;ミーブを電気自動車化してeミーブを発売、電気自動車に力を入れる日産との関係を深めている。GMと別れVWとの提携も解消した(VWは一方的な破談を受け入れておらず、法的手段で取り込もうとしている)スズキは小型ディーゼルを求めてフィアットとの結びつきを深めている。独立色が強く、インド市場を抑え(外資参入障壁が外れてからはシェアー低下傾向にあるが)、上位競合車種の少ないことは世界のメーカーにとって魅力的な提携先さらにはM&Aの対象に違いない。
しかし、国内市場では好調な軽も世界的に見ると問題山積、当にガラパゴスである。税金や保険、車庫証明で優遇されている反面、エンジン容量(660cc)、サイズ(長さ3.4m、幅1.48m、高さ2m)を厳しく制限されている。特に幅は問題で欧州車のうち最も軽に近いスマート(ダイムラーと時計のスウォッチの合弁会社製)もここだけが規定を満たせず(1.56m)小型車扱いになってしまう。幅が膨らむ最大の理由は安全対策にあり、他の欧州車も年々広くなっている。逆に日本規格の軽は世界の安全規格をそのままではクリアーできないのだ。スズキが欧州で比較的人気があるのはスウィフト(ハンガリーで生産)の存在であり、これは国内でも軽ではない。欧州マーケットに挑んだダイハツはついに撤退を決めた。
もう一つ大いに誤解されているのは燃費である。軽も走り方によっては決して普通車に比べ燃費が良いわけではない。特に高速道路を高負荷(例えば3,4人乗り)で長距離走ると、“高回転”を長時間持続せねばならぬため10km/l以下になることもあるのだ。また普通車に負けぬようダーボ付きエンジンを装備した車も決して燃費は良くない。最近これを飛躍的に改善したというミライース(ダイハツ)やアルト(スズキ)が発売され、公称32km/lと言っているが、これでもマツダのスカイアクティヴ・エンジン(30km/l)と大差ない。更なる燃費効率の向上も大きな課題なのだ(まさかハイブリッドは無いだろう)。
最大の問題点は、小さな車を製造販売して儲けるビジネスモデルにある。ビッグスリーは儲けの薄い小型車さえ長く造ろうとはしなかった。欧州では子会社(英フォードやドイツのオペルなど)にその開発を丸ごと任せていた。この関係はわが国市場における普通小型車と軽の関係にもなぞることができる。トヨタ・日産は普通車に専念し、両方を扱っていたマツダ・ホンダ・富士重工・三菱は経営資源分散による非効率で路線選択を迫られていたのだ。残る軽専業のダイハツとスズキ(ここには小型車のスイフトがあるが、軽のノウハウの延長線上でビジネスをしている)は強烈なライバル意識で競争し、優れた車を次々に市場に投入し、前出の“36%”実現の両輪となった。
インドの超低価格車ナノに代表されるように、新興国市場での“軽類似小型車”に対する潜在需要極めて大きい。現在は対象市場が違うスマート、フィアットチンクエチント・ツインエアー(2気筒エンジン)やヒュンダイグループの起亜も超小型車に強い。歴史と技術で負けない国産各社が世界で勝負できるよう、早急に環境整備(優遇処置と規格の見直しなど;優遇処置を頑迷に言い募ることは、結局特殊環境での生き残り策であり、ガラパゴスへの道を辿ることになる)を進めることによって、グローバルなビジネス展開を図れるよう関係者の努力を望みたい。

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