2014年3月15日土曜日

ブログ雑談-4(工場見学会)


一昨日(313日)は雨の中群馬県太田市まで出かけた。東武伊勢崎線に乗ることなど何年振りだろうか?現役時代何度かサントリーの利根川工場へコンピュータシステムの売り込みに行って以来だから20年振り位だろう。広々した北関東平野を快適に飛ばす特急電車の車窓を眺めながら来し方を思い起こしていた。
今回の訪問は大学の専攻学科(機械工学科)OB会主催の工場見学会に参加するためである。訪問先が新潟原動機と言う純然たる機械メーカーであることに惹かれて、遠い所だが出かけることにした。機械に詳しい人は会社の名前から想像がつくだろう。かつての新潟鉄工所が経営に行き詰まり、整理されIHI傘下の会社として再出発した企業の一つである。
機械工学は、熱力学・材料力学・流体力学・機械力学がその基本であり、これらから派生し専門分化した応用機械(熱機関・流体機械・輸送機械・工作機械その他の産業機械;ロボットや精密機械など)を扱う学問分野である。しかし、私は自動制御という非本流分野(昨今の自動車エンジンやメカトロニクスの進展に見るように、今では本流の一角を占めるようになってきているが)をゼミ・卒論として選び、石油精製・石油化学企業に就職したため、これら本流の産業分野との縁がほとんどなかった。卒業後親しく訪問したのは計測制御システムやコンピュータシステムのメーカーあるいは石油や化学などの装置産業を専らとした。従って本流分野の工場に関する知見は学生時代の工場見学会で終わっている。それも半世紀以上(正確には52年)前のことである。そのギャップを確認することも参加の大きな理由であった。
太田はスバル(富士重工業)の街である。何と駅前にはバンコ・デ・ブラジル(ブラジル銀行)のオフィスが在った。確かに日系ブラジル人が多い町としてTVで紹介していたのを見た記憶がある。そんな町の工業団地の一角に新潟原動機太田工場が在った。外から見た第一印象は「産業機械を作る工場にしては全体にきれいだなー」である。OB会の案内には“鉄道用ディーゼルエンジン等の製造工場”とあったから、昔訪れたことのある自動車会社(特にトラック)や鉄道車両会社のイメージでこの見学会に臨んでいる。そこの内部は騒音・粉塵・油それに熱で充ちた当に3K職場であったし、外観も決して美しいものではなかった。つまりザーッと外から見て半世紀の時間を痛感させられた。
この工場の主力製品は陸用・舶用ディーゼルエンジン。陸用は鉄道車両(機関車・ディーゼルカー)と常用・非常用発電が主要な用途。舶用は大きなものでも出力は8千馬力程度まで(このサイズまではほとんど完成品をトレーラーで陸送できる)、主に内航船・漁船・巡視艇それに後述するタグボート向けのもので、マンモスタンカーを動かすような巨大なエンジンは会社としても取り扱っていない。世界のリーダー、ドイツのマン社やフィンランドのワルチラ社(旧スイス・ズルツァー)と戦える領域に焦点を絞る経営戦略を採って、それが成功しているようだ。
内部の見学が始まり驚かされる。大型の工作機械などが稼働しているにも拘わらず、静かだし(たまたまエンジンのテストなど行われていなかった。また説明用イヤーフォーン装着の影響もある)、清潔だし、異臭もしない。だからと言って生産量が少ないわけではない。現在受注状況(基本的に受注生産)は絶好調なのである(リーマンショックの後も生産は落ちなかった!)。先入観との違いは生産(および経営)方式・技術からきていることが、見学が進むにつれ解ってきた。
昔の自動車エンジン工場は特殊部品(例えばキャブレター、電装品、ピストンリング、ベアリングなど)を除き主要部品のすべてをそこで生産し組み立てていた。特にシリンダーブロックを作る鋳物工場などは劣悪な作業環境にあったが、ここでは鋳物は別工場(新潟)から調達する方式に変えている。また部品製造工程も、かつては工作機械や担当者の技能レベル、あるいは原材料にバラつきがあり、結果としてその管理も杜撰になっていた。このようなことはTQCやカンバン方式で改善されてきたことは耳学問としては知っていたものの、現場で逐一説明を聞いて納得した次第である(ある製品についてはIHIの系列に入り、その指導を受けて生産量が3倍にまで上がったとのこと)。
実はもっと根本的な違いと思われるのは、外注品が多いことである。例えば特殊な傘歯車やピストンとクランクシャフトを結ぶコネクティング・ロッド(連結棒)あるいはシリンダーライナーなどにヨーロッパ製品を使っていることがその例として挙げられる。これは技術的に自社で生産できないわけではないが、特化したメーカーから調達する方がコストダウンや海外での保守に有利なことから採用されたようだ。それでは、ここの工場(会社)はただの組立て屋か?そうではない。稼働後の保守サービスも考慮した製品として設計し、輸入品を加工して精度の高い仕上げ(焼入れなどを含む)を行い、全体システムを組み上げるところに付加価値を作り出しているのだ。(もっとも最近の円安傾向は輸入品コストアップの方向に振れるので、経営全体としてそれなりに問題もあるようだ。“円安は輸出産業有利”と言うような単純収支構造ではないのだ)
また、これは工場で見られるわけではないが、事前説明で売上や営業利益に占める技術サポートの割合が高いことを知った。この背景には研究開発・設計・生産・調達に優れたノウハウを蓄積していることがあるに違いない。
社内でZペラと呼んでいるタグボート推進システムがある。巨大なタンカーや大型豪華客船も着岸・離岸にはタグボートの助けが必要だ。タグボートは機敏な動きと強力な推進力を必要とする。その推進力を生み出すスクリューを瞬時にいかなる向きにも変える(プロペラが全周する)ためのシステムがZペラである。自社製舶用ディーゼルエンジンや操船システムをこのZペラと合わせて全体システムとして造船メーカー(船体はシンガポール、中国、韓国などで作る)に提供できるのは、世界に3社しかない。この工場がその一つなのだ。
機械の本流から遠ざかって半世紀。この見学会で日本の製造業の現状を知ると伴に、今後の在り方について学ぶことが多かった。雨の中を遠くまで、交通費(約5千円)と時間かけて出かけた甲斐は充分あった。

以上
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