2014年5月13日火曜日

決断科学ノート;情報サービス会社(SPIN)経営(第Ⅰ部)

1;新会社創設-5

TTECTonen TEChnologyExxon石油プロセス技術の日本における販売会社)で始めたTCS(プラント運転制御システム)関連ビジネスは、当事者たちも新規事業の“模索”というよりは、従来の技術サービス販売業務の延長線と捉えており、ここから新会社を立ち上げようとの考えは当初無かった。むしろ追風がある時にどこまで外で戦えるのか試してみようと始めたものである。追風とは、きわめて挑戦的であったTCS開発とその実用化が1982年には和歌山工場で無事山を越え、その中核メンバー(56人)が当面浮いてきたことと日本IBMが強力にACSTCSの中核をなすプロセス制御用ソフトウェア)ビジネス展開を進めようとしていたことである。
最初にIBMから話があったビジネスは、住友化学千葉工場エチレンプラント向けACS売り込みである。IBMが売るのはACSとそれを動かすハ-ドウェア、IBM4300である。この4300IBMの旗艦ともいえる370アーキテクチャーを持つ中型機で、1970年代末に登場、370では大きすぎる適用分野に大いにうけてベストセラーとなったものである。Exxonでは早くからこの機種に注目しており、関係会社や工場用システムとしてこれを広く導入すべく、IBMとの間で世界規模の数量ディスカウント契約を結んでいた。東燃の最初のTCSも無論この恩恵を受け、通常価格より安く購入できている。IBMが目を付けたのはこれを東燃グループを通すことによって他社に適用できないかということである。Exxonの所轄部門に問い合わせると「契約数量がかなり高いところに設定されているので大いにやってくれ(目標に達しないとペナルティを払うことになるので)」との回答を得た。僅かな手数料であったが、ほとんど何もしないのに利益を上げることが出来た(しかも売上高は大きい)。「こんなところに商売のネタがあるのか!」
次いでIBMが持ってきたのは川崎製鉄(現JFE)千葉製鉄所の2基の高炉用プロセスコンピュータ更新プロジェクトである。ACSのことを海外の鉄鋼学界関係会議で知ったIWMさんと言う計測制御課長が関心を持ち、帰国してIBMに問い合わせてきたのが始まりだったように記憶する。IBMにも営業SEは居るが自社コンピュータの専門家、顧客のアプリケーションに踏み込むには限度がある。売り込みに際してIWM課長を始め川鉄関係者にACSの中身をきちんと説明するとともに、鉄鋼プロセスへの適否検討を細部にわたって求められ、さらに和歌山工場の見学もしたいとの要求。これらの活動が功を奏してASC採用が決まる。その報償対価として “アフィリエート・マーケティング”と名付けられた販売協力金を得ることができた。「営業技術的なビジネスも悪くないな~」
また、高炉操業データ処理の膨大なアプリケーション・プログラム開発の仕事もACSに精通したSEが東燃グループにしか存在しないことから、自ずとそのコアー部分を請け負うことになる。競争者のいないビジネスゆえ、人工単価(時間ベース)とはいえ通常のソフト開発と比べかなり恵まれた条件の下で受注できた。「この辺りの仕事を数量的に大きくするのがよさそうだ」
しかし、こちら(TTECのみならずIBMや顧客を含む)の目論見が思惑通りにいかないことも出てくる。それはプロセス制御技術の提供である。プラント運転制御用コンピュータ利用の最大の眼目はそれによって、省エネルギーや収率改善(このような経済性向上を“プロセス・クレジット”と言う)を図ることである。東燃におけるTCS導入の経済効果をある程度具体的に示しながら営業活動を進めていくと、次のステップとして「それではその技術も提供するのか?」と問われる。石油・石油化学の場合、これは完全にExxon(厳密にはエンジニアリングセンター;EREExxon Research & Engineering)の承認が必要になる。そしてその答えは「Exxonのプロセスライセンスを販売した時のみ、程度に応じて」と言うことになる。「程度に応じて」とはライセンスで開示し、公知になっている制御技術までと言うこと。他社のプロセスで作られたプラントへは事実上提供不可である。このプロセス制御開発サービスこそ、最大の差別化因子、高収益の基と考えていただけに悩ましい問題であった。「一番価値のあるユーザー知見をどこで生かすか」
このように1983年から84年にかけて、TCS技術サービスの実務を通じて少しずつこの業界と自分たちの力が見え始めてくる。

(次回;“新会社創設”つづく)


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