2009年1月3日土曜日

滞英記-14


Letter from Lancaster-14
2007年8月26日

 今週(20日の週)の当地のトピックスは、大きなものはあありません。ただ、気になるのは、このところ少年犯罪(アルコール絡みの殺人;加害者・被害者)の報道が多いことです。景気は良いし、失業率もヨーロッパでは極めて低いところ(5%台)にあります。しかし、既得権の少ない若い人には住み難い社会なのかもしれません。学部卒だけでは中々希望の職業に就けないのが現実です。このような環境が更に下の年齢層に閉塞感を与えている可能性大です。経済効率優先で、ニート、パートタイマー、派遣社員が急増しているわが国も、他人事では無いと、この地に居て感じています。
 泣き言を連ねてきた天気は、ここのところ良くなって来ました。それでも気温は20度前後です。大学の帰り、自宅に辿りついたら、フラットの前で女性が側に犬を侍らせ、マットに仰向けに横たわり、日光浴をしていました。しかし、天気予報には“Shades of Autumn(秋の兆し)”などと言う表現も使われ出し、短い夏も終わりのようです。夕暮れが早くなったことにそれを強く感じます。7月下旬、「そちらでは蝉は鳴いていますか?」とのご質問がありました。全くいません。蝉だけでなく秋の虫の気配すら感じません。ロンドンで日本人ガイドが言っていた「有るか無きかの春と秋、短い夏、あとは暗い冬。これが英国の四季です」をぼつぼつ実感することになりそうです。
 今回のレポートは、皆さんの質問やアドバイスに沢山あった、英国の食に関することを、外食を中心にまとめた<英食つまみ食い>をお届けします。

 研究の方は、引き続きWaddingtonの沿岸防衛軍団における、対Uボート作戦におけるOR適用の本を深耕しています。前回はメインテナンスまででしたが、その後Navigation(航法、特に洋上)、Weather and Operations(天候と作戦の関係;Uボートの最大の敵は飛行機、しかし悪天候で飛べないと、ここをチャンスと船団を襲ってくる。切れ目なく哨戒するにはどうすればいいか?)、Radar(レーダー;初期のレーダーの信頼性向上など)、Visual Problem(Uボート発見のさまざまな効率改善策;双眼鏡の使い方まで!)、そしてAttack(攻撃方法;爆撃進路や高度のとり方、爆雷の種類、投下間隔や深度設定)まで来ました。残るは最終章の、総合的なAnti-U-boat Operationsだけです。とにかく極めて小さい・現場的な戦術・戦闘段階までOR適用が浸透していたことに感心すると伴に、その執念深さに“英国と戦争することの恐ろしさ”を知らされました(尤も、アメリカのお付き合いで始めた、アフガン、イラクの戦いにはこの英国魂は全く感じませんが)。
 8月22日(水)イングランドとドイツのフットボール試合がありました。こう言う国際試合だけはBBCで確り放映してくれます。ドイツのメルケル首相、英国のブラウン首相も観戦に来ました。ベッカムもロスから帰り参加しました。英国中が盛り上がりました。試合は2-1で残念ながら負けました。素人目に感じたことは“組織力”においてドイツが遥かに勝っていると言うことです。あの第二次世界大戦時(否、フォークランド戦争ですら)の執念と組織力はいずこに?!の感です。
 この試合をMauriceと話題にした時、直接試合とは関係ない場面で、「アメリカのスポーツは引き分けが無いんだ。彼らはどうしても勝負をつけたがる国民性なんだろうな。英国のスポーツは本来引き分けありなんだ。クリケットの試合など、5日間戦って引き分けなんて言うのもあった」と語っていました。“戦い”に関する、別の英国人気質を垣間見ました。
 ここへ来て既に3ヶ月を過ぎ、大分資料・著作にも目を通したので“研究成果のドラフト(何故英国で発したORが、各レベルの意思決定者に受け入れられ、実戦で効果を挙げたか)”をまとめ、Mauriceに説明しました。全体としてOKをくれた上で、一つ付け加えてくれたのは、「科学者が、“効果が実証出来るまで”実戦部隊と一緒になって任務をやり抜いたことに注視するように」と言うことでした。先端科学・技術の開拓者には移り気なところがあります(IT関連は、技術進歩が急でこうなり勝ち)。銘すべき助言です。
 次のリーディング・アサイメントは「Britain’s SHIELD(英国の盾)」;レーダー開発と防空システム構築・運用、その中でのORの貢献に関するものです。ハードカバーで200ページを超えるもので、結構タフでしょうが、拾い読みしたところ、戦闘機軍団長;ダウディングの新技術への関わりが詳しく書かれており、“意思決定者と新規技術適用”と言う研究テーマにピッタリの内容で楽しみです。

<英食つまみ食い>
 「食事はどうしているんですか?料理出来るんですか?」「野菜を沢山摂るよう心がけてください」「英国で一番美味しかったものはなんですか?」「生魚を食べる機会はありますか?」「フィッシュ・アンド・チップスはどんな食べ物なんですか?」「当然毎晩スコッチを楽しんでいるのでしょう?」などなど、海外滞在経験の長い方、単身赴任経験者、主婦、身近な友人・家族まで“食”に関するメールを沢山いただいています。“食”は衣・住に比べて、はるかに個々人レベルで身近に感ずる話題なんですね。
 これらのご質問の中で、“自炊”に関するものは、私の日常をよくご存知(推察を含め)の方から発せられるものです。専ら“私、食べる人”に徹してきたのでご心配はもっともです。そして答えは「何とかやっていいます」でご了解いただきたいと思います。と言うのも、レポートは“滞英記”として残そうとまとめているので、自炊の苦労・失敗話では“英国以前”があまりにも多く、日本でやっても同じことをお伝えする結果になるからです。そこで今回は“外での飲み食いとアルコール”に関する話題を中心に、ご質問に対する回答を含めご報告します。
 英国へ出かけると宣言してから、訪英経験のある先輩・友人諸氏から、「楽しい国だが食い物だけはダメだ!酷い!覚悟して行けよ」とコメントいただくことがしばしばありました。ちょっと英国人には酷な表現ですが、「英国人は一般に、味覚の鈍い国民として通っている。そうでないと言う人もいるだろうが、おおむね世界人類の共通認識だから、やむをえない」ということを書いてある本を目にしたことがあります。一方で、先のブリストル行きのレポートでご紹介したように「英国料理がまずいのは、ホテルや高級レストランのもので、家庭料理は決してそんなことはない!」という英国人の反論もあります。私はどちらかと言うと、短い滞在の中のつまみ食い体験にすぎませんが、後者の意見に近い評価をしています。実は田舎で家を借りて生活していると、ほとんど外食をしません。そんな訳で、今でも大体何をどこで食べたのか記憶しています。それでは朝から晩までの時間の流れに従って、味見をしてみましょう。

1)English Breakfast
 朝食を外で摂るのは、ホテルに泊まった時に限られます。英国では基本的にホテル料金はB&B(Bed & Breakfast;朝食混み)で標準的な朝食が供されます。いずれのホテルでも基本はビュッフェで、格別よその国と変わりありません。安いホテルはいわゆるコンチネンタルで温かい物(トーストとコーヒー、紅茶を除く)や肉類がありません。しかし、これはかなり例外的な気がします。経験したのはロンドンに泊まった時で、ここは昼・夜は食事を提供しないほど簡素化されていました。通常は、ベーコン、ソーセージ、たまご料理もビュッフェに用意されているので、非コンチネンタルと言えます。
 English Breakfastと言うのは、ビュッフェにはコンチネンタル(パン、シリアル、飲み物、乳製品、果物程度)しかありませんが、温かいたまごや肉類を別にオーダーをとって(料金は含まれている)好きなものが選択できる仕組みになっています。代表的なのは、ベーコン・たまご・ポテトでしょうか。英国人は(多分コンチネンタル;大陸と比べて)、朝食だけは豪華なものを食していると考えているようで、「朝食は食べたか?English Breakfastだったか?」と念を押したりします。ここで「いや、今朝はコンチネンタルにした」などと正直に答えると、「何故だ?(調子でも悪いのか?)」と聞き返してきたりします。
 朝食にはこの他に、チーズ、ソーセージ、ハム、ヨーグルト、ミルクなどもあり食肉加工品や乳製品は種類も多く、味も大変美味しく、彼らもここはかなり誇りを持っています。EUの統合が進むと、Maid in UKでなくEUになることに反対する人が「EU産のソーセージなんか信じられるか!」と言っていました。
 果物は、いちご、ブルーベリー、リンゴの一部は国産のようですが、大部分南欧、アフリカなどからの輸入品です。
 最後にパンですが、トーストは温かいのを一人4枚くらい焼いてきてくれます。ブラウンとホワイトを問われることがありますが、黙っていると2枚ずつ持ってきます。朝確り食べて、昼は比較的軽めが習慣なのかな?と思ったりしています。
 と言うようなわけで、朝食に関する限りなかなか質・量ともに高い水準にあると評価できます。ただ、メニューを見ていただいてわかるように、“英国”独特の味が出てはいないので、これだけで結論には至りません。

2)Lunch ここは多種多様です。また、確り摂るか摂らないかも思案どころです。さらに、何処で摂るかです。
 先ずサンドウィッチ伯爵が、トランプを中断したくないために発明したと言われる、サンドウィッチ。いろいろなものが挟まれますが、一番よく食べてきたのは、ランカスターハウスホテルのローストビーフとホースラディッシュです。これはゼミの際殆ど毎回食べてきましたが、何故か今週メニューから消えてしましました。仕方なくスモークサーモンにしました。多分来週からは毎回スモークサーモンになるでしょう。これにサラダと独特の、キャベツのみじん切りを少しドロドロした酸味の強いマヨネーズ状のもので和えたもの(何かきちんとした名前があります)、それにカリカリのポテトチップ。あとはビターのジョン・スミス。両者は良く合います。パンの種類、挟む具もいろいろです。チキン、ハム、チーズ、たまご、サーモンなどなど。
 Gregg’sと言う、全国チェーンのサンドイッチフランチャイズ店(ランカスターの中心にも2件ある)から、街の肉類総菜屋がその場で作ってくれるようなものまで(この方が断然美味しい)、どこでも手に入る気安さ、値段の手ごろさもあり、オフィスの自席や公園のベンチで、ビジネスマン・OLが頬張っています。定番ランチと言っていいでしょう。温かいのが食べたいなと言う時は、ホットサンドウィッチが良いでしょう。丸いパンに、チキンとブルーチーズを挟んだホットサンドウィッチにフライド・ポテト(この量が多い!)なども人気があります。
 次いでジャケット・ポテト。ベークド・ポテトです。違いは種々のトッピングがあることです。私の好みはチーズ・アンド・ビーンズ。他にベーコンやオニオンなどそれぞれの店で独特のトッピングを考案しています。バターだけのもの、素のものももちろんあります。これにサラダ、例のキャベツとポテトチップスが組み合わされます。ソーセージなどが添えてあるのもあります。
ジャガイモは当地では準主食、スーパーに行くと多種多様のジャガイモがあります。ジャケット用はその大きさが桁違い、あれを外から中まで均一に仕上げるにはそれなりのノウハウが要るんでしょうね?
 田舎道をドライブしていて、昼飯時なかなかサービスエリアが見つからないとき、小さなInnなどが見つかると飛び込みます。メニューにジャケット・ポテトが載っているとホッとします。本当はビターを一緒にやりたいところですが、我慢のスパークリングウォーターです。
 次は各種ミートパイ。形・大きさ、中身の肉、これも多種多様。寒い日が続いたのでどうしても温かい食べ物が欲しくなります。特にドライブと外歩きが組み合わされた時、ミートパイとスープの組み合わせは最高です。
 これはランチではありませんが、ロンドン観光中、ジャパンセンターで寿司を買い、これをホテルで食べることにしましたが、ビールの当てがないので帰路途上、ヴィクトリア駅でミートパイを買い増し、寿司とミートパイと言う日英同盟記念料理を摂ったこともあります。考えられない組み合わせですが、美味しくいただきました。珍体験ご紹介まで。
 スープだけと言うこともあります。最近娘とその友人が遥々ランカスターまで訪ねてくれました。翌日湖水地帯案内のドライブに出かけました。観光の中心地、例の国際免許が見つかった、ウィンダミアを案内し昼食時間になりました。さて、どこで昼にしようか?取り敢えず土産物屋や飲食店の集中する方へ向かいましたが、その途上湖水を一望する広々とした庭を持つホテルが見えてきました。湖水に並行する道路に沿ってそのホテルの石積みの塀が続いていいます。塀が一部切れてホテルへの入口になっています。そこに“Light Lunch”と書いた紙が張ってあります。観光客が入っていく気配がありませんでしたが意を決して、芝生の中の遊歩道をホテルへ向かい上っていくと、風格のあるホテルの全容が見えてきました。建物中央の前庭部分に丸テーブルが幾組みか置かれ、一組の家族が昼食を摂っているところでした。小さな入口から中に入ると、そこもカフェテラスのように設えてあります。バーのカウンターがありますが人は居ません。呼びかけると厨房の方から人が出てきて、対応してくれました。「Light Lunchとあるが、どんなものがありますか?」と問うとメニューを出して説明してくれました。そこに“スープ、ロールパンつき”と言うのがありました。彼女たちは“ブルーチーズのホットサンドウィッチ”を注文しましたが、私はこの“パン付きスープ”にしてみました。この後のアフタヌーンティーを考えればこれで充分と考えたからです。昼食時のパン付きスープはここだけでなく他でもありました。
 さて、お待ちかね、“フィッシュ・アンド・チップス”です。
 私がフィッシュ・アンド・チップスと言う食べ物を知ったのは、1982年シドニーで開催された、Esso Eastern(エクソンのアジア地区統括会社)のORワークショップに参加した時です。一日前にシドニー入りしたので、市内の渡し場、サーキュラー・キーから対岸に渡り、タロンガ動物園に出かけた時です。昼食時、園内の立ち食いスタンドで皆が求めているものを見ると、魚を揚げたものとポテトフライでした。何というものか聞くと、“フィッシュ・アンド・チップス”という答えが返ってきました。早速買い求め、食べてみると大変美味しいものでした。その後、これが英国生まれで代表的な軽食であることを知りました。そしてあれ以来四半世紀振りの“フィッシュ・アンド・チップス(F&C)”は、またまたORとセットでした。
 実は、こちらへ来てから2度しかF&Cを食べていません。最初はマンチェスターからランカスターへの移動中、高速道路のサービスエリアで摂った昼食です。二度目はカーライルへ観光に出かけ、そこのレストランで昼食を摂ったときです。他の昼食と比べ著しく少ないのは、それほどこれを提供する店に出会わないからです。来る前の印象では、街のそこここにF&Cの店があると思っていましたが、意外と少ないのです。パブのような所へ入ればあるのかも知れませんが、昼食を摂るためにパブに入ったことがありません。ランカスターにもパブは街中に沢山在りますが、どうも昼間から入る雰囲気ではないのです。
 さて、F&Cはどんなものか?基本的に魚は白身の魚;Cod(たら)、Haddock(少し小振りのたら)が大半と言っていいでしょう。他のものもあるのかも知れませんが、味わう機会がありません。これを衣に包んで揚げるわけですが、揚がった状態は春巻きの皮のような硬くカリカリしています。魚は薄く塩味がします。これにフライド・ポテトが付きますが、この量が相当あります。レストランで食べると、さらにサラダが加わります。これだけです。ビール、ビターとの組み合わせは最高ですが、一回目は運転の途上ですからコーラにしました。これはいまひとつピッタリ来ません。二回目はビターを飲みながら食べたので、当に英国の味を堪能しました。これだけで昼食としては十分です(いや、ポテトは全部食べ切れなかった)。問題は油の多さで、これを頻繁に食べることは、確実にメタボリック体型への道に繋がるでしょう。
 この国には、階級社会の歴史が未だに強く残っていると言われています。後でも触れますが、食物・食材にもその歴史が反映しています。F&Cは典型的な下層労働者階級の食べ物だったようです。古新聞に包んだF&Cを、港や工場が隣接する街頭で立ち食いしているシーンを想像すれば、その説に真実味が出てきます。食べる場所、食べ方を考える必要があるようです。もっとも、日本でもお公家さんや位の高い(町廻りでない)武士が、麺類を食べている場面は映画・TV・小説にはまず出てきません。意外と上流社会の方々も、こっそり庶民の味を楽しんでいるのかも知れませんね。
 以上の英国伝統昼食料理のほか、中華、イタリアン、インド(これは当地ではまだ食べていない)などの料理が気軽に摂れます。大体その国の出身者がやっているので、専門店(ホテルはダメ)で食べれば味は間違えありません。
 と言うようなわけで、昼食に関しては選択肢も多く、美味しい英国料理が手軽に楽しめます。決して“英国料理は酷い”ものではありません。

3)Afternoon Tea
 “アフタヌーンティー”、優雅でゆとりを感じさせる良い言葉ですね。“3時のおやつ”とほぼ同目的(やや広い)のものですが、日本語・英語の違いを除いても、浮かんでくる情景が違います。マナー(大邸宅)、シンガポール、香港などにピッタリの雰囲気です。
 この言葉を初に知ったのは、1975年のシンガポールです。このとき会社に入って二度目(最初は、1970年のアメリカ、フランス)の海外出張をしました。目的は、先に出てきたEsso Eastern主催の“Logistics Economic Course”と称する石油精製・販売に関するビジネス・ゲームに参加するためでした。当時私は川崎工場で生産管理情報システムの開発に従事していたので選ばれたのです。Eastern傘下の各国から参加者があり、チームを組んで石油会社を経営して競い合うのです。2週間、トレーニングセンターの在ったシャングリラ・ホテルに缶詰になってしごかれるのです。とは言っても息抜きの時間はあります。そんなある午後、ロビーの喫茶コーナーで何気なくメニューを見ていると“アフタヌーンティー”とあったのです。飲み物、ケーキ、サンドウィッチなどがセットになっています。それらしき午後を過ごしている人達が居ます。言葉や内容から、英国の植民地時代を窺がわせるものです。“なるほど ゆとりだなー” その時の第一印象です。
 まだ近代化途上だったシンガポールには古い植民市時代の雰囲気が残っていました。目をつぶりまぶたの裏に写るのは、強い日差し、気だるい午後、バルコニーのある白い建物、広い緑の芝生が広がる庭、白いテーブルと椅子、これも白服の紳士・淑女が集う、お茶を給仕する現地人。インドで、マレーで、シンガポールで、香港で、ヴィクトリア時代の大英帝国です。現代の英国人もこんなよき時代の情景を思い起こしながら、アフタヌーンティーの時間を過ごしているような気がします。
 アフタヌーンティーは、紅茶とお菓子;スコーンが代表的ですが、クッキーやケーキも好まれます。甘いものが欲しくない時には、小型サンドウィッチもあります。具はきゅうりやチーズ、ハムなどあまりかさ張らないものが用意されます。もうチョッと重い食事を、遅いランチにすることもあるようです。また、場所によっては果物を組み合わせることも可能です。紅茶はもちろんポットで用意されます。むろんコーヒーでもかまいません。
 当地で過ごしたアフタヌーンティーでは、ブリストル訪問でジェフの周到な準備で訪れた、ヴィクトリアン・タウンハウスに住む、ジーニーのバックヤード(主庭)で過ごした時間がいつまでも記憶に残りそうです。レモンケーキと紅茶、話題が何故か「長男と母親;甘えん坊」になりました。「私も母にとって初めての子供ですから、その話はよく理解できますよ」 話が弾んだのは言うまでもありません。
 先日娘がやってきたことをお話しました。帰国した彼女から、訪英印象のダイジェス・メールが来ました。一番印象に残ったのは、湖水地帯観光に組み込んだ、マナー(大邸宅)訪問だったと。このマナーは、フッカー・ホール(Holker Hall)といい、赤い石(砂岩)で出来たお城のような邸宅で、メアリー王妃やグレース・ケリー王妃も宿泊した、由緒あるマナーです。現在も利用されており、その一部が公開されているのです。門を入ってしばらくは建物が見えないほどの敷地の中にあり、素晴らしい庭も見ものです。観光客用に別棟のカフェもあります。ここでアフタヌーンティーを味わっていると、英国在住の人気小説家、カズオ・イシグロの「日の名残り」の背景がよく理解できた、と言うコメントが加えられていました。執事や女中頭が登場する、日本では想像できない世界です。案内した甲斐がありました。
 アフタヌーンティーは、英国の文化と歴史が詰まった特別な飲食習慣で、これだけは他と比べることはできません。英国訪問のチャンスには、是非この時間を楽しむことをお勧めします。

4)Dinner
 料理の美味い・不味いは詰まるところディナーに尽きます。最初の2週間のホテル暮らし、ロンドン、エジンバラ、ブリストル、ヨーク、ランカスター市内で外食ディナーを食べています。ホテルでのディナーによく、POSHと書かれた看板が出ています。   POSHは何かの略語(P.O.S.H.)らしいのですが、まだ調べていません。その下に2種類でいくら、3種類でいくらと書いてありますから、メニュー選択と値段のことであることは間違えありません。最初に夕食を摂ったランカスターハウスホテル(LHH)で、POSHとは書いていないもの、それと同じ説明を受けました。つまり、①前菜、②メインA、③メインB、デザートは別料金、と言う説明で、メインをA,B2種にするか、AかBかいずれかにすするか、という選択を先ずします。前菜を含む3種の中から2種を選べば値段は2種の値段、全部を取れば3種の値段になります。私は一度もメイン2種にしたことはありません。①~③の中身はさらに3~4種ありここからひとつを選びます。例えば、前菜:サラダ、スープ、スモークサーモン、シュリンプ、メニューA:ラム、ポーク、ビーフ、メニューB:鱒、サーモン、チキン、パスタのようになっています。もちろん“何とか風”と言うような料理用語や、和え物・ソースの名前などが加わり、メニューを眺めたり、一度聞いただけではどんなものが出てくるのか分からないのはどこのレストラン、ホテルとも同じです。早口の英語で説明されても、混乱は増すばかりです。結局、素材とせいぜい調理法(焼くのか、煮るのかなど)で選ぶことになります。
 LHHとそれに続いて宿泊したホリデーインはそれぞれ1週間泊まりましたが、世評通り酷い料理でした。いろいろ変えてみましたがどれもダメです。手は込んで、努力はしていることは認めますが、味付けに全くコクがありません。素材も、ビーフはパサパサして肉汁の美味しさが全く染みでて来ません。早々と外から買ってくるもので夕食を済ませるようになりました。
 田舎のランカスターだから仕方が無いのか?ロンドンに出かけた時友人夫妻が泊まる、四つ星ホテルを訪れました。ハイドパークの北東角、マーブルアーチに近い落ち着いた雰囲気の良いホテルです。ロビーに隣接するバーで軽く一杯やりました。「良いホテルだね!」と話し出すと、夫人が「でもね、レストランは全くダメ。食べる気がしないの。昨晩は外から買ってきたもので済ませたの」とおっしゃる。数え切れないくらい英国へ来ているという二人の評価です。その晩のディナーは、オックスフォー通りから少し入った、英国風中華レストランでご馳走になりました。「中華は間違いないからね」と言うのが友の総括でした。同感です。
 ヨークに出かけた時、ディナーをどうするか随分悩みました。カジュアルで来ているので、簡単なもので済ませようかとも思ったのですが、英国に来て一度もディナーとしてローストビーフを味わっていないことが気になっていました。一度きちんとした所でローストビーフを食べたい。これには昔食べた、極上のローストビーフへの思いが未だに強烈に残っているからなのです(サンドウィッチに挟むものとは全く別物)。
 1960年代の終わり頃、当時パレスホテルの地下にあった(現在は無い)「シンプソン」にお招きを受け、おそらく生まれて初めて、ローストビーフなるものをご馳走になりました。口の中でとろける様な柔らかさ、肉汁とソースが作る深みのある味わい。“シンプソンのローストビーフ”はそれ以来あこがれの味になっているのです。シンプソンは、ロンドンを本拠とする有名レストランですから、「英国の高級レストランの料理は高くて不味い」の評価は少なくともローストビーフに関してはないはずです。
 トップクラスが優れていれば平均値も高いだろう。こう考え、ヨークでのディナーにローストビーフの可能性を当りました。日本から持参のガイドブック、ホテルでもらった観光案内、これらを調べているとロースト料理の専門レストランが見つかりました。両者に載っている店です。売りものは、ローストラム、ロ-ストポーク、ローストチキンそしてローストビーフです。身なりが心配で、フロントに聞きに行きました。「カジュアルで全く問題ありません。予約しましょうか?何時にします?」こうして出かけたのが、ヨーク(観光)を代表するレストランです。店の外から、シェフがローストした肉を切り分けているのがガラス越しに見えるような店です。入って予約を告げると、直ぐ席に案内してくれました。ここで(失敗かな?)と思いました。お客が皆観光客のような感じの人ばかりなのです。しかも空席があります。席に着き赤のグラスワインを注文し、メニューを眺め、定番のローストミート(3枚好きなものを選べる。混合可)をメインに選び、前菜はシュリンプカクテルにしました。前菜はまずまずでした。いよいよメインです。ビュッフェスタイルの調理台に向かい皿を取ると、シェフが「何にしますか?」(一瞬、三種類一枚ずつにしようかな?と思いましたが)「ビーフ」と言ってしまいました。三枚のローストビーフが皿に盛られました。(ウーン?何かサンドウィッチのローストビーフと同じ感じだな;脂身がまるでない)ソースや和え物は自分で好きなものを選びます。席に戻り、一切れ口に入れると、ガツーン!“何だこれは!(肉はパサパサ、ソースは淡白でまるでコクがありません)。“英国料理は不味い”を確り確認しました。
 英国料理の名誉のために付け加えれば、家庭や地元の人が出かけるようなレストラン、田舎の旅籠では美味しいディナーをいただきました。どれも素材がビーフでなかったこと、ソースによく手が加えられていることが共通です。
 簡単な料理を自分で作る。来る前に想定したのはビフテキです。きっと肉は安くて美味いだろう。スーパーで買い求めたステーキ用牛肉でビフテキをやりました。ガツーン!でした。肉汁がまるで無いのです。健康のために脂身の全くない牛を作り出したのでしょうか?とにかくこの国の牛は全くダメです。和牛は別にして、アメリカやオーストラリアでこんな酷い牛肉に出会ったことはありません。牛は酪農用に飼い、御用済みになったら食肉にするんでしょうかね?シンプソンの肉は何処から来るんでしょう?おそらく帰国するまでビフテキを口にすることはないでしょう。
 ではポークはどうなんだ?結論から言えば、スーパーで買い求めるのは豚肉が一番多いのが実情です。先ずベーコン、スモークしたものを買います。そのまま焼くのも良し、刻んで他のものと混ぜるのも良し、美味しくて重宝な食材です。ポークソテー用の豚肉もなかなかいけます。塩・胡椒しただけで美味しいソテーが出来上がります。カレーライス、野菜スープにもこれを使っています。ビーフとは格段に差がある味です。
 ただ、短期滞在者の外国人である私にとっては関係のない話ですが、歴史的に見ると豚肉を食べることは、この国ではまともな人と思われない時代が長く続き、ベーコンなどは最下層民の食べ物であったようです。隣の国、アイルランドでは逆に、豚は一番身近な家畜として古くから愛されています。これは彼等がケルトで、ローマの血を引くからだと言われています。ローマ帝国では、豚は豊かさの象徴として崇められてきた歴史があります。英国・フランス・ドイツ、いずれもローマから見れば野蛮人の国(アングリア、ゲルマニア、ガリア)でした。いずれの国もローマ(そしてギリシャ)に如何に近いかを強調する傾向があります。とりわけ英国はローマ・イタリアコンプレックスの強い国です(貴族の子弟は、教養を深めるためこれらの国々を旅行することが流行った時代があるくらいです)。そんな歴史から見れば、豚肉蔑視は合点がいきません。アイランド蔑視の結果なのでしょうか?

5)Whiskey、Whisky、Scotch
 ビジネスを通じて親しくなった友人が、出発前に横浜上大岡駅に近いバーへ、壮行会を兼ねて誘ってくれました。知る人ぞ知るウィスキーに関する日本を代表するバーです。種類、仕入れ元との関係、マスターの知識(本を書いています)いずれをとっても超一流、“楽しむ”領域に達しています。「向こうへ行ったら大いにウィスキーを楽しんで来てください」マスターが送り出してくれました。
 しかし、Scotch(スコットランド)もWhiskey(アイルランド)もWhisky(イングランド)も残念ながら一度も飲む機会がありません。夜、誰かと飲む機会が無いのと、ビンを買ってきて一人で飲むのは生活のペースを守れなくなる恐れがあるからです。食事も済んで自室に篭もり、ウィスキーをチビリチビリやりながら、ミリタリーサスペンスを、CDでも聴きながら読む。これを、ビジネスを退いた後の夜のパターンにすることを、40代後半くらいから目論んでいました。しかし、数年前かかりつけの医師から深夜の飲酒を禁じられました。Mauriceの貸してくれる本は、サスペンスではないもの、私にとってはそれ以上に興味深いものです。禁断の園は直ぐそばにあるのです。
 こちらへきてすっかり習慣になってしまったのが、ビター(黒ビール)です。晩酌はジョン・スミス(JS)のエキストラスムーズ、500mlの缶です。最初のきっかけはMauriceとの昼食ゼミあります。「ギネスよりスムーズだよ」と言うアドバイスで始め、すっかり気に入っています。最初に缶を開けてビンに注ぐと、泡だけが入っているように見えますが、その中に液体分が確り含まれています。“クリーミー”と言う表現がピッタリの口当たりは、ラガービールにありません。味も癖が無く(これが短所であるかもしれませんが)大変飲みやすいビターです。外で食事をする際、先ずビターがあるかどうか?次いでJSがあるかどうか問い、あれば必ずJSです。帰国してから、これを味わえないのを今から心配しています。
 ワインもよく飲みます。殆ど安い欧州産、オーストラリア産、南アフリカ産の赤です。自宅ではスーパーで買ったもの、外では店のハウスワインをグラスに一杯。英国人もワインが好きなようでピンからキリまで、スーパーでもレストランでも揃っています。実は、日本の自宅では滅多にやらなかったランチワインをやるようになってしまい、トータルの飲酒量が増えているのではないかと、反省しつつ飲んでいます。

 飲酒は、今や英国社会を蝕む最大の社会問題になってきています。特に少年の飲酒が、さまざまな犯罪と直結しています。警察も必死ですが、対処療法だけでは治まらない、何かがあります。若者に夢を与え、それを実現する環境が著しく狭まってきているのではないかと、短い滞在期間ですが強く感じています。若者だけではありません。今や、6千万人の内5百50万人が海外に居住しているのです。Mauriceによれば生活費高騰に対する逃避だそうです。人気のある外国ベストスリーは;オーストラリア、スペイン、アメリカです。特に年金生活者には、フランス、スペインを始めとした近隣南欧諸国が多いようです。何と言っても、天気は良いし、美味しいものが食べられる国々ですからね。年金生活しながら英国へ来るなんて、余ほどで変人なんでしょうか?

                                                                       以上
 

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