2013年3月22日金曜日

遠い国・近い人-21(有朋自遠方来 不亦楽乎ー2;シンガポール)



当時(1984年秋)東燃はTCSTonen Control System;プラント運転制御システム;IBMExxonが共同開発したACS、高度制御システムと横河電機製DCSCENTUMの組合せ)プロジェクトが和歌山工場で一区切りし、国内で日本IBM とその販売ビジネスを推進していた。IBMはこれを世界に広げたかったし、東燃としてもExxonグループの中でACSの普及を願っていた。このRCARefinery Computing Activity)ミーティングはそれをPRする絶好のチャンスだった。いくつかの適用事例紹介の内でも、特にここは力を入れて発表するよう準備してこれに参加した。
ところが、東燃の発表に先立って、ゼネラル石油のIKDさん(プロセス技術課長)がHoneywellExxonERE)が共同開発したPMXの堺工場への導入状況について発表を行い、制御アプリケーションばかりでなくシステムやHoneywellのサービスについても、極めて優れたものであることを、参加メンバーに訴えたのである。EREから参加していたプロセス制御技術課長のオランド氏もそれを強くサポートするコメントを加えたので、PMXへの関心が一気に高まった。
実は、Exxonグループの中で“ACSPMXか”は極めてデリケートな状況にあったし、TCS選択に関して東燃グループ内でも結論を出すまで、多くの議論を交わしたテーマであった(本ノート-64106“大転換TCSプロジェクト”に詳述)から、質問をはさみ挟みながらPMXの問題点を縷々参加者に説明した。これに対してIKDさんは当然それら(特に、新DCSTDCS3000の開発が大幅に遅れ、一世代古いTDCS2000で動かさざるを得なかった)が実用上問題ないと反論してきた。逆にこの後の私の東燃の発表ではACSの問題点(汎用機を用いるための技術的な難点など)を指摘して、プラント制御に特化したシステムであることと、プロジェクトを一括して請けることの出来るHoneywellの利点を強調して、PMXの優位性を主張する。これに私が反論する。
ミーティングの参加者は、必ずしもプラント運転制御の専門家ばかりではないし、東燃とゼネラルを除く他の国の製油所はほとんどコンピュータの導入実績も無いので、両者の議論に割って入ることが出来るのはEREくらいで、あとは日本人同士のバトルを興味深く見守るばかり。見かねたIt Chengが「面白くて有用な議論だが、時間も来たので」と過熱気味の両者を分けてくれた。
休会に入るとIt Chengが私のところにやってきて、「正直言って私も議論の内容に不明確なところが多々ある。今日の二つの発表の議事録をまとめ欲しい」と言う。「私の見解でまとめていいのか?」と問うと「一番分っているのはMDNさんだからかまわない」と答えるので、私の独断と偏見で議事を総括した。書いた内容は後日訂正もされず配布されたことから、彼が私を信頼してくれていたと信じている。これが彼と今日まで付き合ってこられた最大の要因である。
このことは余ほど彼の記憶に残ったようで、その後会うたびに話題にしては「あれは面白かった!」と笑っていた。

後日談;10数年後、私はシステムプラザ(SPIN)の役員と成りゼネラル石油に保全管理システムや品質管理システムを買っていただいた。IKDさんはこの時堺工場長で、一夜あのバトルを懐かしみながら一献傾けた。二人の間に何も蟠りは無かった。そのことを2000年にシンガポールでIt Chengと食事を伴にしたとき伝えた。

(つづく)

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